高橋誠氏、日本のグリーン地方債を調査──ESG資産を「主力配置」へと推進
2021年7月、FCMIの主席アナリストである高橋誠氏は、日本各地の地方自治体が発行するグリーン地方債(Green Local Bond)に関する実地調査を完了。中長期的なESG資産配分の構造転換を視野に、年金・保険資金における「コア資産」としての位置付けを提案し、FCMIの戦略ポートフォリオにおいて先行的な試験導入を行いました。
この取り組みは、日本の機関投資家がESGを「補助的ラベル」から「戦略的資産」へと本格的に格上げしようとする転換点と見なされています。
世界的ESG投資の拡大と日本の対応
2021年上半期、ESG投資は欧州連合(EU)のグリーンファイナンス制度の進展、バイデン政権によるカーボンニュートラル政策の推進、日本政府の「2050年ネットゼロ」宣言などを背景に、世界的な長期資金の注目を集めました。
特に、地方債を通じて低炭素インフラや環境公共事業を資金面から支援する「グリーン地方債」は、ESG債の中でも実効性の高い資産として関心が高まっています。
京都・神奈川・埼玉の現地調査と制度評価
高橋氏は2021年6月下旬、京都府、神奈川県、埼玉県の財務部門を訪問し、地方財務局、ESG評価機関、主幹事証券との非公開ラウンドテーブルを通じて、グリーン地方債の発行スキーム、プロジェクト審査基準、キャッシュフロー設計、情報開示制度などを詳細に分析しました。
彼は、「従来型の地方債と比べ、グリーン地方債は償還期間が長く流動性がやや低いものの、資金使途が明確で社会的インパクトが定量化可能、かつ信用リスクが極めて低い。年金や長期保険資金にとって理想的な“責任資産”である」と評価しました。
ESGを“戦略資産”に──日本の制度的ギャップを指摘
高橋氏は、現時点で日本国内におけるESG投資は広く認知されている一方、実際の運用では「テーマ型ETF」や「パッシブ指数連動型商品」にとどまり、本格的な戦略的配置には至っていないと指摘。
「グリーン地方債は、“信用の安定性”と“ESG適合性”の両立を可能にし、特に低金利環境下で“安定と意味”を求める投資家に適したソリューションである」と語りました。
FCMI地方債研究グループによる2021年6月末時点の試算では、国内流通中のグリーン地方債は約1.3兆円、平均利回りは0.36%、償還期間中央値は約8年とのこと。年金資産プールに組み入れることで、債券セグメントの利回り基準点として機能するほか、ESGスコアを活用して信用リスク構成を最適化し、ポートフォリオ全体のESGリスク曝露を抑制できるとしています。
“政治的正しさ”ではなく“財務的合理性”としての導入を提案
高橋氏は、「グリーン地方債の組入れは、単なる政治的正当性の問題ではなく、財務戦略上の合理的判断である」とし、地方債、鉄道債、REIT債などと組み合わせた「低ボラティリティ利回りゾーン」を形成することで、金利変動リスクに対する緩衝材となり、デュレーション管理の柔軟性を高め、SDGs対応のコンプライアンス要件にも適合できると述べました。
FCMI月次投資会議では「地方債は、実体経済へのインパクト経路が最も短いESG資産だ。“資金の流れ-環境影響-財務収益”の連鎖が明確で、信用分析も透明性が高い。今こそ、ESGを“選択肢”から“責任”へ転換すべきであり、地方レベルで金融の誘導機能を具現化するべきだ」と訴えました。
今後の展望と国際比較
FCMIではすでに、グリーン地方債を年金保険顧客のコア資産ポートフォリオに組み入れており、2021年第4四半期には「ESG地方債戦略ホワイトペーパー」の発表を予定。そこでは、銘柄選定基準、期待収益、リスク要因、ESG定量評価モデルなどが網羅される予定です。
また、高橋氏は今後、韓国やシンガポールなどアジア他国におけるグリーン市債の制度整備と市場成長も比較追跡し、日本のESG信用資産における地域的優位性を強化し、「政策主導から実績主導」への進化を促す方針です。
