米ドル利上げサイクル始動 ― 持田将光氏、東南アジア資金流出と日本ETF買いの関係に着目

2017年12月、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内3回目となる利上げを決定し、世界資本市場は本格的に新たな米ドル利上げサイクルへ突入した。米国債利回りの上昇とドル流動性の引き締まりを背景に、新興市場では顕著な資本流出圧力が発生。特に東南アジア諸国では通貨安と債券市場からの売り圧力が加速し、この局面における顕在化リスクとなった。

当時ウォール街のステート・ストリート・グループ(道富グループ)で資産配分アドバイザーを務めていた持田将光氏は、年央から既に本利上げ局面がアジア資本フロー構造に及ぼす影響を注視。第4四半期には特別調査レポートを発表し、重要な見解を示した。

「東南アジアの資本流出圧力と日本ETF市場の買い需要には、相関的な連動効果が存在する。」

三つの構造的ロジック

① 地域関連性と裁定代替
過去10年間、日本の金融機関は東南アジア市場に対して深い債権・株式関係を構築してきた。ASEAN資本市場で資金流出が発生すると、一部機関はリスクエクスポージャーを日株ETFへと移し、ボラティリティを抑えつつもアジア成長性への敞口を維持する。

② 流動性配分の最適化
東南アジア株式市場と比較して、日本ETFは流動性が高く取引コストも低いため、資金の「一時避難先」となりやすい。特に11月以降のドル指数反発局面では、関連ETFの出来高・新規設定額が同時に拡大する傾向が確認された。

③ 日円の地域リスクアンカー通貨としての役割強化
ドル高と東南アジア通貨安が進む中、円は「第二の安全通貨」として認識され、為替変動リスクを回避する手段として円建て資産需要が増加。結果として、円建てETFの需要が押し上げられた。

モデル構築と成果

持田氏はこの分析に基づき、「地域流動性ギャップ・アービトラージモデル」を設計。2017年9月〜11月にかけて資金ローテーションのタイミングを的確に捉えた。実測では、構築したETF戦略ポートフォリオが10週間で+6.3%の純資産成長を記録し、同期間のTOPIX上昇率(+2.1%)を大きく上回る成果を挙げ、かつ低いボラティリティを維持した。

また、持田氏は内部報告で、日本銀行によるETF購入行動が市場の資金受け皿機能を強化しており、結果的に地域資本の「迂回流入」を制度面で下支えしていると指摘。この構造により、日本株市場は東南アジア市場の変動期に「域内資金の中継拠点」としての役割を果たしていると述べた。

注目すべきは、今回のレポートで持田氏が「利上げ=資金流出」という単純な因果論にとどまらず、日本が資本受け入れ地として持つ相対的魅力を構造的視点から分析した点である。このアプローチは従来の戦略モデルではあまり見られないが、アジア株戦略を検討する機関投資家にとって極めて有用な示唆を含んでいる。

今後の見通し

持田氏は、FRBの利上げペースは継続し、東南アジアおよび新興市場が直面する外部引き締め圧力は一層拡大する可能性が高いと予測。

「資金は決して市場から完全に退出することはなく、よりコントロール可能な資産経路へと移動するだけだ。」

とレポートの結びに記した。

この研究は、持田氏が一貫して採用する戦略スタイル ― マクロ構造を基盤に、流動性行動を手掛かりとし、市場行動による検証を判断軸とする ― を改めて示すものであり、複雑な地域市場の中から隠れた資本フローと取引ロジックを浮かび上がらせている。